今時珍しい、林業の現場を描いた小説である。舞台は三重県中西部の山奥の神去村。
二十歳になる中野勇気が村に移り住んで2年目を迎え、就職した中村林業株式会社で、
見習いから正社員に昇格したところから物語が始まる。10月から12月までの3か月間、
山仕事と日常の経験をパソコンに記録するという形で物語が展開する。登場するのは、
勇気が居候している家のヨキ[飯田与喜]と妻のみきさん、繁ばあちゃん、むく犬のノコ。
勇気が働いている会社の社長でおやかたさんと呼ばれている中村清一さんとその家族、
田辺巌さん、70代半ばの小山三郎さん、勇気が思いを寄せる小学校教師の直紀と、
のどかな神去村の住人たちである。
冒頭、神去村の成立が繁ばあちゃんによって語られ、読者はそのまま狭い神去村に巻き起こる
さまざまな出来事に立ち会うことになる。「なあなあ」というのは、神去弁で、「ゆっくりいこう」
「まあ落ち着け」という意味だが、「いいお天気ですね」「どうも!」という感じで、挨拶代わり
に使われているとのこと。そのままタイトルになっているのだが、ぴったりしている。
「俺」という一人称の軽い語り口なので、読者は易々と神去村とその地に生きる村人たちに感情
移入出来そうである。
並行して語られる山のさまざまな表情と、山仕事の奥深さが、ストーリーのもう一方の柱となって、
読者を魅了するに違いない。本作の前に書かれたという『神去なあなあ日常』も、是非読んでみたいと
思ったことである。